20210206 Fリーグ 府中vs名古屋

優勝を決めた名古屋オーシャンズと立川府中の1戦。

 
名古屋は今節アルトゥールが登録外。19歳の伊藤がメンバーに登録された。またペネジオが初スタメン、等々優勝決定後らしく新しいシーズンに向けて発進。普段と違う顔ぶれでのスタートとなった。
一方のホーム府中は前回対戦で名古屋に大敗している苦い記憶がある。今節もチーム得点王の内田をはじめとしたベストのメンバーを揃えた。セットもかなりいつも通りに近い。王者をホームで迎え撃つに磐石な状態での試合スタートとなった。

 

<府中の立ち上がり、名古屋の応答>
府中は立ち上がり、ボールを持つと敵陣への長いボールで打開を図る。
立ち上がり10秒、皆本からバックパスを受け取ったゴレイロ黒本が敵陣深くに入っていた新井にロングパス。これがフィクソ星龍太の頭を超えて一つ目のチャンス。
1分半、サイドを変えてボールを受けた内田がフリーだと見た上村がライン間の位置から方向を変えて奥へラン。絶妙なボールが内田から飛んで決定機。
 
やはり前回対戦を踏まえ、府中はまずは裏のスペースを狙ってきた。自陣でのリスクを避け、トランジションによる失点を極力抑えようとした狙いがあったと思われる。
そして相手陣にボールを送り込んだのち、府中は積極的なゾーン守備を仕掛けた。

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府中のゾーン守備。攻撃の視野を、選択肢を奪う守備
これは結論から言えば、非常に上手くいっていたように思う。今期府中はゾーン気味の守備を積極的に仕掛ける時間帯が多くあるが、名古屋に対してもかなり有効に攻めることができていた。
特に立ち上がりは優位な回避をほぼさせていなかった。
敵陣にボールを送り込み、守備で押し込んでボールを奪い、カウンターを狙う。
 
しかし名古屋もそんな展開は慣れっこと言わんばかりに打開を狙う。
そして先制点もそのゾーンを広げる一瞬の攻防の一つだった。
 
アラでボールを持った八木がボールをさらすと、安藤、ぺピータがボールから離れ、府中の空いたゾーンにスパウットが侵入。これで一瞬カバーにいたはずの上村、完山がマークとカバーの関係を迷った。
八木が一人をまた抜きでかわした瞬間、カバーに出るはずの後列の二人が出遅れたのを見逃さず3v2を制した名古屋がぺピータで先制。
府中はいい試合をしていただけに痛い先制点となった。

 

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名古屋の先制点。ゾーンの一瞬の迷いをついた。
しかし、府中はここでも自分たちを見失わなかった。徹底して敵陣の強度を上げ、ボール奪取からチャンスを狙う。
5分、新井→酒井とプレスをかけ、八木がロングボールを狙うも皆本がカット。そのトランジションから新井がゴールを奪い、同点に。ぺピータの帰陣が遅いのは比較的名古屋のあるあるではあるが、人が前に立ちながらも堤が蹴り込んだボールを華麗なボールタッチで流し込んだ。
 
 
<府中の得点>
そしてここから試合は加速する。
名古屋がプレスを回避してゴールに迫れば、府中はボールを奪ってからのトランジションで積極的に内田がゴールを狙っていく。一進一退とも言える攻防の中、抜け出したのは府中だった。
13分、左サイドでボールを持った上村が縦で待つピヴォの渡邊へ前に立つペネジオの股を抜いてパス。縦ワンツーで再度抜け出した上村がゴレイロとの1v1を制して逆転に成功した。

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府中2点目。一瞬の隙を完璧についた。

 

予兆はあった。
この5分前に上村はピヴォ当てからマークを外してシュートを撃っている。その時、ピヴォの周辺のスペースはフィクソだった水谷を除いて、ぽっかりと空いてしまっていた。枠を逸れたものの、本来マークだったはずの吉川始め、誰も身体を投げ出すことすらできない距離にいた。
 
 
 
 
名古屋は全員が強靭なフィジカルを持っている故に、積極的に前からプレスをかける。当然突破されたあとの撤退は早いのだが、ピヴォ当てからダイレクトに侵入する形はよく攻撃の中でも段違いに早い。対人が強い故、ピヴォを使って入れ替わられた瞬間の対応で名古屋が一瞬迷うのは勝ち点を落とした湘南戦含めある程度再現性があった。
現にこのシーンでも、入れ替わられたペネジオ、唯一カバーに出られたはずだった八木でさえ上村にボールが出た時点でノーチャンスだった。
スコアで上回ってしまえば、府中の戦い方は非常に有利だ。
こうしてこのまま時をうまく進めた府中が(名古屋のチャンスはあったものの)勝ち越して前半を終える。
 
 
<後半の名古屋の変化>
追う展開になった名古屋は、苦しめられたプレスに一つの解決策を提示する。
それはいわゆる「ライン間」を使った攻略だった。
府中の守備は構造上、前に二人が必ず残る。つまり、そこを置いていってしまう形を作れば数的優位でボールを運べるわけだ。
 
例えば人が残ったサイドと逆にピヴォが降りてきて、逆アラが突破する。これであっという間におくで3v2ができる。
あるいは、ライン間に入った選手をシンプルに使って回避。

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名古屋の回避。奥で3v2ができる。

 

そして、敵陣に入ってしまえば名古屋にはぺピータ、ペネジオ、平田をはじめとした個で打開できたり、時間を作れる選手がいる。彼らが時間を作り、周りの選手が駆け引きでマークを剥がしてゴールを狙う。
これで次第にペースが名古屋に傾いていく。そもそもそういった事態を防ぐため、自陣まで攻め込まれないようにと設計した府中の守備が、いつの間にか自陣まで押し込まれているわけだ。当然そのストレスは無自覚でも溜まっていく。
そんな中ボールが外に出た瞬間に意識が途切れた中、ペナルティエリア内のピヴォ(星翔太)にダイレクトにキックインでボールが入る。完山が結果的に倒してしまいPKとなったが、ここにそもそもボールが入る時点で何かしら選手の意識の途切れがあったように思う。
 
 
これで同点となった府中は少しずつやるべきことを見失う。
マイボールでも「ボールを繋いで突破」を狙うようになった。
しかし、これでは名古屋の思い通り。ぺピータが敵陣でボールを奪って3v2トランジションを制し、逆転に成功した。同点弾から、わずか2分のことだった。
 
 
 
この辺りは本当に難しいが、1点差で前半を折り返し、後半立ち上がりで追いつかれるのは本当に苦しい。メンタル的に落ち着いてプレーするのは難しいことだと感じる。この試合でも府中が持っていたスタンスを崩したのはこのワンタイムのみだ。
しかし、それを名古屋は見逃してはくれない。この辺りは流石すぎて言葉がなかった。
 
 
その後、バタつく府中が与えたフリーキックを名古屋が冷静にしずめ、4-2に。同点から2分、あっという間の逆転だった。
 
 
<府中のPPは刺さっていたが…>
2点差となったものの、府中は再び息を吹き返す。
もう一度試合始めに戻し、敵陣奥深くの位置を目指して走り、プレスからチャンスを作る形へ戻した。
それに加え、黒本も攻撃に参加。こうなると名古屋は必然的に押し込まれることをある程度享受せざるを得ない。試合は殴り合いの形となった。
しかしスコアが動かず、残り5分で府中がPPに。
 
府中のPPはざっくりと言えば、最初2-3の形から中央の渡邊が左に流れ、数的優位を得ようというものだった。
これ自体は刺さっていて、現に府中の得点もここから揺さぶった結果生まれている。数的優位が更なる数的優位を生み、得点へ。これは非常に効果的だった。

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府中のPP。生まれた数的優位を活かしてゴールへ向かう。
しかし、これはあくまで主観となってしまうが、逆転とまでいくかと言われるとうなづけない状態だった。何というか、ゴールが割れる気がしない。
 
もちろん客観的な要因はある。
これに対し名古屋は渡邊含む3枚への警戒を強化し、星翔太に内田、完山2枚を追わせた。こうなると攻め手はこの二人が直接シュートを打つことになるが、利き足的に逆で打つしかない。ゴレイロの視界がクリアになることから見ても、効果的な対応だった。とは言え、ロングレンジのシュートがある内田や完山であれば、充分事故含めゴールは狙える。

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PP対応。こうなると二人が逆足で打つしかない。

 

とは言え、逆転が見えなかったのは抽象的にはなるが、府中の方がバタついていた、というのがあるかもしれない。焦るあまり、どこかバタバタと試合を進めてしまった。
 
そしてそれは、5失点目という形で現れてしまった。
黒本がボールを持ち上がってきたものの、周りのサポートが得られない。苦しいながら内田に出したが、名古屋の選手があっという間に囲む。
溢れたボールを平田が完璧なコースで黒本の頭上を超し、5点。PPで2失点したものの、完璧な試合運びで1敗を守る形となった。
 
 
こう見ると、名古屋はやはり圧倒的に強い。
確かに転換点はあった。
例えば、名古屋の3点目、動画で見ていればカウンターで西谷にパスが出た瞬間、府中の堤がぺピータにマンマークして、西谷への対応はゴレイロに任せるのが定石の対応ではあるし、実際そうしていれば失点しない可能性はあった。それでも、自分が失ったボールであの場面、我慢できる選手が何人いるかと言われれば、非常に難しい。
あるいは、府中が再三生み出していたトランジションがもう1本でも決まっていればというとことはあった。事実、渡邊や内田は何度かゴール前フリーに慣れていた。
しかし、名古屋の対応は的確で、最後ゴレイロかシュートブロックが必ずいる状態でのシュートとなる。これを決めるのはやはり難しい。
 
 
全体として名古屋が危なげなかったが、漬け込む余地を与えなかった。
敗れた府中は2位3位戦線から一歩交代。残りシーズンも、見られる試合は見ていきたい。